放牧畜産基準認証制度の概要

1.放牧畜産基準認証制度の目的

放牧は、地域の土地資源(草地)を活用した、土―草―家畜が結びついた資源循環型の畜産です。放牧によって健康的に飼養された家畜からは、低コストで良質な畜産物を生産することができます。また放牧は、わが国の食料自給率の向上、国土の有効利用と環境保全、緑空間等の景観の提供、アニマルウェルフェアの向上に加え、国連が目指すSDGs(持続的開発目標)に資する観点からも、その普及・推進が望まれています。

(一社)日本草地畜産種子協会では、このような放牧を取り入れた畜産の生産方式(放牧畜産)を普及・推進するため、放牧畜産基準を制定し、その認証制度を創設しています。この制度が、広く消費者から支持を得られるとともに、放牧畜産共通の認証マークの表示を通じて、放牧畜産によって生産される畜産物の生産がより拡大し、ひいては放牧畜産の普及・推進につながることが期待されます。

2.放牧畜産基準認証制度の仕組み

畜産は、家畜の成育段階によってその経営が分業化し、それぞれの飼養管理方法には独自の工夫が施され、畜産物が消費者に届くまでには生産者以外の処理・加工業者、製造業者等を経るのが一般的です。

そこで、まず放牧畜産を実践する生産者が順守すべき「放牧畜産基準」を設定し、この基準を満たした放牧を実践する畜産経営を「放牧畜産実践牧場」として認証します。この対象になるのは酪農経営と肉用牛経営です。

そして、放牧畜産によって生産される生産物を認証表示するための基準として、次の個別基準を設定し、それぞれ認証手続きを行います。

すなわち、放牧畜産実践牧場のうち、酪農経営から生産されるのは生乳です。この生乳を原材料として製造する牛乳を「放牧酪農牛乳」として表示し、販売しようとする場合は、「放牧酪農牛乳生産基準」を適用します。同様に、この牛乳を原材料として製造する乳製品(チーズ、バター、ヨーグルト(はっ酵乳)、アイスクリーム及びその他の放牧酪農乳製品)を、「放牧酪農チーズ」、「放牧酪農バター」、「放牧酪農ヨーグルト」、「放牧酪農アイスクリーム」及び「その他の放牧酪農乳製品」として表示し、販売しようとする場合は、「放牧酪農乳製品生産基準」を適用します。それぞれ表示するためには、その基準に基づいて生産されていることを確認することにより、認証手続きを行います。

また、放牧畜産実践牧場の酪農経営において、放牧期間中に期間を限定して生産された生乳を原材料とする牛乳については「放牧牛乳生産基準」を、乳製品については「放牧乳製品生産基準」を適用し、それぞれの基準に基づいて生産されていることを確認することにより、認証手続きを行います。

放牧畜産実践牧場のうち、肉用牛経営から直接生産されるのは子牛又は肥育牛です。このうち子牛を「放牧子牛」として表示し、販売しようとする場合は、「放牧子牛生産基準」を適用し、この基準に基づいて生産されていることを確認することにより、認証手続きを行います。さらに、この放牧子牛(肥育素牛)を肥育し、出荷するまでの肥育段階は、「放牧肥育牛生産基準」を適用します。最終的に肥育された放牧肥育牛は、と畜、処理、加工され、牛肉として消費者に販売されるまでの過程については「放牧牛肉生産基準」を適用し、全ての事業者においてそれぞれの基準を満たしていることを確認する必要があります。

放牧畜産実践牧場から生産される生産物が、処理、加工、製造されていく過程と、そこで適用される基準と認証表示の対応はに示すとおりです。

3.放牧畜産基準の構成

放牧畜産基準は、上記のことから、ベースとなる放牧畜産実践牧場として認証されるための基本的基準(ガイドライン)である①放牧畜産基準と、放牧畜産物の認証基準である②放牧酪農牛乳生産基準③放牧酪農乳製品生産基準④放牧牛乳生産基準⑤放牧乳製品生産基準⑥放牧子牛生産基準⑦放牧肥育牛生産基準⑧放牧牛肉生産基準、の全8基準で構成されます。各基準の概要は次のとおりです。

  1. 放牧畜産基準:

    放牧を広く普及推進するために、放牧を実践する生産者が順守すべき基本的基準(ガイドライン)として制定します。この基準を適用するのは酪農経営と肉用牛経営です。当基準に従って放牧を実践する畜産経営(牧場)は、所定の認証手続きを経て「放牧畜産実践牧場」として表示することができます。

    なお、この基準が個々に規定する内容は、「1. 目的」に沿って必要最小限の順守事項を定めています。従って、この基準は、個別に畜産経営者や関係事業者が、より厳格なレベルで放牧を実践することを制限するものではありません。

  2. 放牧酪農牛乳生産基準:

    放牧畜産実践牧場(酪農経営)から供給される生乳を原材料として牛乳を製造し、「放牧酪農牛乳」として表示し、販売しようとする場合に適用します。放牧酪農牛乳は、通常の牛乳と同様に、生乳の殺菌処理から包装する段階まで、衛生管理、品質管理に関する法令を全て順守し、全ての段階において分別管理が求められます。

  3. 放牧酪農乳製品生産基準:

    放牧畜産実践牧場(酪農経営)から供給される牛乳を原材料として乳製品を製造し、「放牧酪農チーズ」「放牧酪農バター」「放牧酪農ヨーグルト」「放牧酪農アイスクリーム」及び「その他の放牧酪農乳製品」として表示し、販売しようとする場合に適用します。

    なお、この基準では乳製品の範囲を「チーズ」、「バター」、「ヨーグルト」、「アイスクリーム」及び「その他の放牧酪農乳製品」とします。また、通常の乳製品と同様に、生乳の殺菌処理から加工、製造、包装する段階まで、衛生管理、品質管理に関する法令を全て順守し、全ての段階において分別管理が求められます。

  4. 放牧牛乳生産基準:

    放牧畜産実践牧場(酪農経営)において、放牧期間中(ただし放牧を開始して10日後から放牧終了日まで)の乳用牛から生産される生乳を原材料として牛乳を製造し、「放牧牛乳」として表示し、販売しようとする場合に適用します。「放牧牛乳」は、通常の牛乳と同様に、生乳の殺菌処理から包装する段階まで、衛生管理、品質管理に関する法令を全て順守し、全ての段階において分別管理が求められます。

  5. 放牧乳製品生産基準:

    放牧畜産実践牧場(酪農経営)において、放牧期間中(ただし放牧を開始して10日後から放牧終了日まで)の乳用牛から生産される牛乳を原材料として乳製品(チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリーム及びその他の放牧乳製品)を製造し、「放牧チーズ」「放牧バター」「放牧ヨーグルト」「放牧アイスクリーム」及び「その他の放牧乳製品」として表示し、販売しようとする場合に適用します。

    なお、通常の乳製品と同様に、生乳の殺菌処理からこれら乳製品に加工、製造、包装する段階まで、衛生管理、品質管理に関する法令を全て順守し、全ての段階において分別管理が求められます。

  6. 放牧子牛生産基準:

    放牧畜産実践牧場で飼養されている母牛から生まれ、放牧を取り入れて育成された子牛を「放牧子牛」として表示し、販売しようとする場合に適用します。

    放牧子牛は、出荷時までに3か月以上放牧されている子牛とします。

  7. 放牧肥育牛生産基準:

    放牧子牛又は放牧子牛に準じる子牛を肥育素牛として肥育し、「放牧肥育牛」として表示し、出荷しようとする場合に適用します。この基準では、肥育段階においても可能な限り放牧することを努力目標とし、かつ粗飼料多給によって肥育することを必須要件としています。

    なお、放牧子牛に準じる子牛とは、放牧畜産実践牧場以外の牧場で生産・育成が確認でき、放牧子牛生産基準に従って生産されたことが証明できる子牛です。

  8. 放牧牛肉生産基準:

    放牧肥育牛から、と畜、処理、カット等を経て生産された牛肉を「放牧牛肉」として表示し、販売する場合に適用します。衛生管理、品質管理に関する法令を全て順守し、全ての段階において分別管理が求められます。